5人目のビートルズ(2)
前回は、5人目のビートルズが14人いると云う話をした。実際は数える人によって、もっと多かったり少なかったりいろいろだろう。でも、この二人だけは外してはならないという人がいる。
それが、ブライアン・エプスタインとサー・ジョージ・マーティンだ。
ブライアンはビートルズのマネージャーだった。どこの馬の骨だか分からなかった荒削りなビートルズの可能性に凡てを賭け、最後には命まで捧げてしまった男だ。初期ビートルズのファッション、ヘアスタイル、マナー、米国進出計画などビートルズが驚異的な成功を収めた影には彼の存在があった。彼こそが5人目のビートルズといって間違いない。

じゃあ、サー・ジョージはというと、オーディションを受けに来たビートルズをすくい上げたEMI傘下のレーベルのプロデューサーだ。豊かな音楽的素養を生かし、ビートルズの奔放で奇抜な発想をリアルな音にするため神骨を注いだ。
サー・ジョージの仕事でもっとも有名なのはたぶん、アルバム Magical Mystery Tour の中の Penny Lane の間奏にあるピッコロトランペットのアレンジと云うことになる。ちょっと凡庸な曲が、トランペットの音とともに空に舞い上がって行くのである。
曲に強いアクセントが欲しかったポールが、サー・ジョージに相談をもちかける。
「ねー、ジョージ。この間奏のところに、天使が舞い降りてくるような美しい響きが欲しいんだけどなにかいいアイデアはないかなあ」
「ポール、ピッコロトランペットという楽器を知ってるかね。まさにそれこそ天使の響きだと思うよ。スコアはわたしが書くからちょっと試してみないか」
なんて会話があったのでは、とよく想像してみるのです。
アルバム Revolver のなかの Tomorrow Never Knows という曲がある。これは世の中に初めて現れたサイケデリックソングだと云われている。この世に存在したことのない音を掴もうとジョンは悩みぬいてサー・ジョージに相談する。ジョージは思いつく限りのアイデアをジョンに示したが、ことごとく拒否。
「おっさん、オレはこれまでだれ一人聴いたことのない音が欲しいんだよ」
困り果てたサー・ジョージは半ば自棄になって
「そうだジョン、1回録音したテープをバラバラに切り刻んで部屋中にまき散らすんだよ。それから適当につなぐ。それはもうだれ一人聴いたことないこと受けあいだ」
「ジョージ、君は天才だ! さっそくやろう、いますぐやろう」
まもなく、その途方もなく面倒な作業をやらされる羽目になったサー・ジョージは録音技師のマル・エヴァンスがウンザリする樣子を見るにつけ、余計なことを云ったと大いに後悔するのであった。
なんてことも想像するのでした。
ビートルズの音楽がいまこの世にあるのは、まさに彼がプロデューサーだったからと云って良いだろう。ビートルズの音楽にとって彼こそ間違いなく5番目の存在だ。
どっちもどっち重要な人なんだけど、21世紀のいまとなるとやっぱりブライアンはほとんど忘れられていて、サー・ジョージこそが一番の5人目のビートルズなんだろうな。
写真はおととしの今頃の岩手県室根村某所の雪景色。ことしは1月も終わるというのに、まともに雪が降らないし、暖かい。いったいどうなってるんだろう。


Comments
1950-60年代にはまあ変なこといろいろやった人がいろいろいて、それはそれで面白いのだけど、ジョンの場合はその変な音がポピュラーとしてみんなのなかに入っていき、この曲はサイケデリック音楽としてその後発展していく種みたいなものになったし、いまの音楽にかかせないサンプリングとか音を合成するということについてもまあ多くの影響を残していると思うのです。単に面白いだけではなくて。
Posted by: ponz | March 02, 2007 at 11:54
テープを部屋中にばら撒いた……。
確かこれ、アメリカの文学者のだれだっけっか? うーん、ガードナーとか? 名前、度忘れしてるが、その人のエピソードにもありましたね。
確か文章を細切れにして部屋中にばら撒き、適当に拾い上げて繋ぎ合わせて文学作品にしたとか。
「偶然」ってなものを定着させる作業。
作者の無意識を再構築するため、自らの意図を抹殺してしまう作業。
変なものに興味を抱くものだな(笑)(笑)
Posted by: chida442g | February 28, 2007 at 19:47